悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
「うーわ。カビが生えてる。みんな口を覆って」
いちいち使い捨てマスクを召喚するのは面倒──しかも大人数なのでエコじゃない──ので、アリスもルークも隊員たちも、口元にハンカチやスカーフを巻き付けていた。傍から見ると盗賊団さながらである。
「パンにできるあれと同じやつですか……」
見た目が悪いので、カールにもカビが悪いということはわかる。
「これは洗えないよなー。どうする、お妃様。全部買い替える余裕は、うちにはねえですよ」
そこにいたカールが腕組みして唸った。
隊員たちはアリスを「お妃様」と呼ぶようになったものの、未だ敬語と丁寧語が使い分けられずにいる。
「うう……そうね、カビてる部分だけ切り取って、何か詰めて縫うしかないかしら。それにしてもすごい手間ね」
そしてカビの胞子は見えている部分だけにあるとは限らない。知らずに吸い込み続けると健康に悪い。
「洗濯はともかく、裁縫ができる男はここにはいませんぜ」
アリスとカールが困り果てていると、黙っていたルークが口にしていたスカーフを外し、ずいと前に出た。