悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
「冗談よ。ねえ、喉が乾かない? お茶を淹れましょうか」
「俺も行くよ」
使用人がいないので、夜にお茶が飲みたくなったら自分で用意するしかない。
執務室から厨房までの廊下は暗いので、ルークはランプの代わりに手から光を放ち、護衛のようにアリスにぴったりとくっついて彼女を誘導した。
(ちょっとドキドキするかも……)
アリスは亜里の林間学校のときの肝試しを思い出した。中二だった亜里は、特に親しいわけではない男子とペアだった。相手を知らない分、やけにドキドキした。
亜里の人生で、唯一輝いていた時代かもしれない。
ルークの手に引かれ、厨房に着いたアリスは異変に気づいた。
ドアを開ける前から、中に誰かがいるような物音が聞こえる。
「誰かがつまみ食いにきたわね」
「それだけならいいがな。念のため、君は俺の後ろにいろ」
鼻息を荒くしたアリスを落ち着けて、ルークがゆっくりと扉を開く。
「誰かいるのか!」
厨房の奥に向かって右手を突き出すルーク。彼の手のひらから放たれる光彩が、闇の中から侵入者を浮かび上がらせた。