悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています
うつろなジョシュアの目には、アリスが凶悪な悪魔にでも見えているようだ。両手をバタバタさせ、大声を上げる。
「俺にはわかっているんだぞ! お前は俺を殺しに来た死神だ。お前の横には、元女房までいる!」
「叔父上、落ち着いてくださいっ」
「ああ、なんだよ。元女房が、そこで知らない男と抱き合っている。お前ら、城に部外者を入れていいのか」
「そんな人はここにいない。何を言っているんだ」
アリスはゾッとした。
ジョシュアの言うことは完全に辻褄が合っていない。目はうつろで、手が震えている。顔は汗でぐっしょりと濡れていた。
他の者はもっと早く症状が出た。そう、これはアルコール依存症の離脱症状だ。
彼は今、誰にも理解してもらえない幻影に苦しめられているのだ。
(本当のことを言っても無駄よ。わかりはしない)
アリスは目でルークに訴える。
幻影を現実と思っている者に、どんなに真実を教えても無駄なのだ。
きっと彼は自費で買った酒を切らせてしまい、厨房に盗みに来たのだろう。禁断症状が出るということは、何日かは我慢していたと思われる。