悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

「お酒はいけないけど、眠れる薬をあげるわ」

 可哀想だからといってここで酒を与えても意味がない。

 とりあえず抗精神薬で落ち着かせようと、アリスは手を天にかざした。

「そんなものいらない。酒だ。酒を……うううっ」

 ジョシュアはルークに抑えられたまま、まだ酒樽に手を伸ばそうとする。その膝が唐突にがくんと折れた。

「あああっ、うう……」

 思わず手を放したルークの足元で、ジョシュアはうずくまる。

「どうしたの? どこか痛いの? ここ?」

 アリスは召喚をやめ、ジョシュアに寄り添う。

「痛え! やめろっ、触るな!」

「きゃあっ」

 腹を触られたジョシュアが乱暴に腕を振り払い、拳がアリスの頬を直撃した。

 くらりと脳が揺れ、彼女は床に倒れ込む。

「お前っ……!」

 ルークが怒りに震え、ジョシュアの首元を掴む。

「うっ……。大丈夫よ。放してあげて」

 頬を押さえ、アリスはすぐに立ち直る。

「鎮痛剤もいるみたいね。大丈夫、楽になる……」

 彼女が手をあげようとした刹那、ジョシュアは体を折り曲げて激しく咳き込んだ。

 彼の口から、赤い塊が飛び出した。それは彼の服を、床を、容赦なく濡らす。

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