ライオン王子に飼われたネコさん。
「なんで泣きそうになってんの?」

ゆっくりと近づく顔に、真白は目を見開いた。

咄嗟のことで体が動かないのはいつものこと。
だけど、拒むことだってできない訳じゃない。

拒めないのは惚れた者の弱さ。

唇が触れる直前、ピタリと怜音の動きが止まり、「……ダメだな」と小さく呟いた。

至近距離で目が合ったまま、髪を一束掬われて弄ばれる。

「今、どういう状況か分かるか?」

「わか、らない」

嘘だ。本当は分かる。

それを見透かしているのか、そうでないのか。
怜音は頬から首へ手を滑らせた。

ビクッと思わず震えると、怜音は馬鹿にしたように小さく笑った。

「一人暮らしの男の家にのこのこやって来て喰われそうになってんだよ」

「……呼んだのはあなたでしょ?」

「まぁな。けど、お前みたいに警戒心強い奴が油断しすぎじゃないか?……いや、警戒心が強そうに見えて案外緩いよな。だからアイツにも襲われるし、今だってそう。甘いんだよ」

ゆっくりと、更に下へ指が這う。鎖骨から胸の上へと移動した指に真白の心臓の音が伝わってしまう。

「音、やばいな」

ふっ、と笑われる。

怜音の方は至って平常通りなのに、真白はもう限界寸前。それが腹立たしい。

(私ばっかり、振り回されてる。)

悔しさに唇を噛み締めていると、怜音の顔が離れた。

「好きな人に取っておきたいならどんな時も油断しないことだな。男の前で酒を飲むのも、男の部屋にのこのこ入るのも二度とするな」

これが最後の忠告だと言うように、怜音は真白の目に滲んでいた涙を掬った。
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