ライオン王子に飼われたネコさん。
(誰か、いる?)

そんなまさか。

セキュリティ抜群、二十五階のこの部屋はそう易々と侵入できる場所ではない。

そう思いながらも、脱衣所に続く扉の先に人の気配を感じる。さっき聞こえた音も空耳ではない。

トレーニングルームから護身用に竹刀を持ち出す。

華奢に見られがちだが撮影のために日頃から鍛えているし、空手や柔道、それ以外にも護身になりそうな術は一通りマスターしている。

プロの選手たち相手なら話は変わって来るが、一般的な男性くらいなら簡単に倒すことができる。

その例外の為の竹刀だった。

コンコン、と試しにノックしてみるとガタガタと音が聞こえる。

ルナを床に下ろし、勢いよく扉を開けた。


「ひゃっ!」

高い声と共に、目に飛び込んできたのはバスタオルで首から下を隠す女性。

それも、銀がよく知る女性だった。


「…………えー、と?」

首から下は見えないが、顔からして恐らく全身真っ赤になっているだろう。

目には涙が溜まっていて、普段の銀ならそっとハンカチでも差し出すところだが理解が追いつかない。

取り敢えず扉を閉めた。

「ここ、俺の部屋だよな?怜音の部屋じゃないよな?」

当たり前のことなのに、目の前で起きていることがあり得なさすぎて訳がわからない。

だから、きちんと確認しなくてはならない。

「真白ちゃん、だよね?」

扉の向こうに聞こえるように声を張り上げると、ルナが珍しく「ニャー」と鳴き声を上げた。

それから、少しだけ脱衣所の扉が開いて、茶色い髪が覗く。

「あの、謝罪も含め、事情を説明させて頂きたいのですが……。その、服がなくて……。図々しすぎることは承知しているのですが、服を貸して頂けないでしょうか?」

震えた声とシャンプーの香り。
扉から覗く真っ赤な指先。


どんな事情であれ、銀はある男に殺される場面が脳裏に過るのだった。
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