ライオン王子に飼われたネコさん。
自分の意思で動かしたわけでもないのにピクピクと動く薄い何かに触れた瞬間、走り出した。
「おい!」
怜音のことなど構っていられない。
迷いなく衣装部屋の全身鏡に向かう。薄く埃をかぶっている鏡はぼけてはいるが己を映すには十分だった。
真白は開いた口が塞がらず、声も出なかった。
百六十センチ越えのはずの身長は膝にも到達せず、冬らしい暗めの茶色に染めたはずの毛は全身真っ白で、黒いはずの目が水色に変わっている。
ピクピクと動く耳と髭に、ゆらゆら揺れる尻尾。
有るはずのものはなく、無いはずのものがある。
唯一同じなのはクリッとした大きい目の端が少しだけ吊り目がちな猫目なこと。
(いや、この場合、猫目っていうか猫そのもの!!)
瞬きしても変わらない光景に愕然とする。
(ああああり得ない!非現実的すぎる!)
文明科学の時代に生きるクソ真面目な日本人の真白にはこの現状は到底受け入れられるものでは無い。
「ここにいたのか」
後ろから聞こえた声にぎくりとし、どこかに隠れるところはないかと探すが時すでに遅し。
「服に毛がついたら怒られるからここはダメだ」
ひょいと持ち上げられ、嗜められる。
(猫に何言ってんだ。……いや、違う!猫じゃない!)
バタバタと暴れ回るも力の差は歴然で、腰をガッチリと捕まえられてびくともしない。
いっそのこと手を引っ掻いてやろうかと企むも相変わらず綺麗な手をした彼に傷を作る訳にはいかず、なす術なし。
抵抗する力を抜き、されるがままにぶらんとしているとピンと頭にくる。
(あ、これ夢だ。)
そうだ。そうに違いない。
猫の姿になってしまっていることも、別れたはずの怜音の家にいることもこれは全て夢だと思えば解決だ。