ライオン王子に飼われたネコさん。
「真白ちゃんの未練を断ち切るために思う存分、満足するまで怜音の側にいさせてあげる。その間、私はあなたの援助は惜しまない。そういう契約よ」

「契約」

怜音のそばにいられる。甘美な誘いにさっきまでの抵抗が嘘のように消えていく。


「そう。サインして」

「は、い」

真白はぼーっとしながら、紅羽がさっき引いた線の上に名前を書く。

普段の彼女なら契約関連の書類は三度は間違いなく確認する。

日本中知らない人はいないと言っても過言ではない怜音と伊達に付き合ってたわけではない。

警戒心だけは強い。

しかし、あっさりと署名してしまった。

お酒を飲む手が止まらなかった時とは違い、サインの時は真白の意思で体が動かせていたのに頭が働かなかった。

「契約完了。おねーさんが魔法をかけてあげる」

契約書を確認した紅羽はぼんやりとしている真白の額に人差し指をかざした。

「契約者、七瀬真白。あなたの心が満たされるまで忘れられない人の下でペットとして過ごす権利を与えましょう。そして、その手助けを魔女紅羽が契約終了時まで行うことを誓います」

パァと真白の体が輝き始め、彼女が座るスツールの下に入り組んだ魔法陣が現れた。

「未練がある者へのキスによって契約終了、契約の破棄とします」

紅羽は指先に力を込め、ニヤリと笑った。

「可愛い猫ちゃんにな〜れ!」


瞬間、真白は眩い光に包まれて、消えた。

彼女がいた瞬間まで着ていた服が力を無くしてスツールの上にだらんと落ちた。

主人を亡くした服はただの布なのに微かに膨らんだり萎んだりして、まるで生きているようだった。

紅羽が真白の服を回収する。ちょうどトップスとボトムスの間に丸まった猫がいた。

それは人間ではなく、魔法にかけられ猫になった真白だった。
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