私だけを愛してくれますか?
*◇*◇*
〝控室〟と書かれた扉をノックする。
「はい」と返事が聞こえたので、扉を開けた。
部屋の中には、しんとした冬の陽射しが差し込んでいる。部屋の中央には、眩いばかりの白無垢に綿帽子を身につけた花嫁、世界中の誰よりも美しい妹がいた。
「お兄ちゃん」
嬉しそうに美織が呼ぶ。
「美織、綺麗や。今まで見た中で一番きれいな花嫁さんや…」
それ以上言葉が続かない。
「ありがとう」
うるんだ目元を優しく綻ばせて、美織は微笑んだ。
小さな頃から、変わらぬ笑顔がここにある。グッとこみ上げてくる想いをこらえて、目を瞬かせた。
「困ったことがあったら、いつでも言って来いよ。兄ちゃん、すぐに迎えに行くからな」
震える声で、精一杯の想いを伝えた。
「お義兄さん、そんなこと言ってもらったら困ります」
無駄にいい声がしたと思ったら、今はこの世で一番憎らしい友が、馴れ馴れしく肩に手をまわしてきた。
「お前、その呼び方止めろって言ったやろ!」
肩に置かれた手を振りほどく。
「まあまあ。兄弟げんかはそこまでで」
面白そうに、友人の一人の岩倉仁が言った。
『兄弟げんか』
友が義弟になるのか…
この世は不条理なことだらけだ。
花婿と花嫁の邪魔にならないようにと、気を利かせた仁に追い立てられて、部屋を後にする。
「織人。美織ちゃんの結婚、むちゃくちゃ反対したらしいな。大がぼやいてた」
仁が声を立てて笑った。
「ダイが嫌なんじゃなくて、美織が嫁に行くのが嫌やっただけや…」
わかってる。倉木大はいいやつだ。美織はきっと幸せになれるだろう。わかっていても嫌なもんは嫌だ。
「美織ちゃんと大の間に子どもができたら、さぞかし可愛い子になるぞ」
ピクッと肩が揺れた。友人たちはみんな知っているが、俺は真剣に保育士を目指そうと思ったくらい子どもが好きなのだ。
「お前、小さな子ども好きやろ。美織ちゃんの子ども、絶対可愛いやろなぁ」
芝居がかった言い方で、仁は俺を煽ってくる。
美織の子ども…。絶対、可愛いに決まってる。
黙って想像を膨らませている俺を見て、仁はゲラゲラと笑った。
「お前のそういうわかりやすいとこ、俺は好きやぞ。これからもみんなで楽しくやっていこう」
なんかうまくあしらわれたような気がするな。でも、美織の子どもは確かに楽しみや。
こうなったら、世界一の『親バカ』ならぬ『伯父バカ』になるぞ!
*◇*◇*
数年後、美織にそっくりな女の子に「おじちゃま」と呼ばれ、予想通りデレデレになるのはまた別のお話。


