離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

 正面に座った真紘さんをまっすぐに見つめる。

 緩いパーマのかかった黒髪、常に色々なものにアンテナを張り巡らせてくるくる動く、大きな瞳。家では常に笑顔でいる彼の唇が、今はまっすぐに引き結ばれているのが切ない。

 それでも、別れると決めたんだから。

 私は太腿の上に置いた手にギュッと力を籠め、口を開いた。

「真紘さん、私と離婚してください」

 瞬間、彼の瞳が、動揺したように揺れる。なにか言いたそうに口を開いては閉じ、それからおそるおそる問いかけてくる。

「えーと……嫌です、っていうのはアリなのかな?」
「できればナシで」
「ってことは、俺なんかやっちゃった? ごめん、今までの自分の言動を思い出すからちょっと待って」

 そう言うなり、真紘さんはこめかみに手を当てて「う~ん、う~ん」と唸り始める。

 離婚の原因が自分にあると思っているようだ。優しい彼らしいが、それは完全に誤解だ。

「いえ、違うんです。真紘さんはなにもしていません」
「えっ? だったらどうして」
「むしろ、なにもしていないから……と、言いますか」

 私はキュッと唇を噛み、彼にすべてを話すかどうか、しばし葛藤する。

 ちらりと真紘さんの顔を窺ったらものすごく真剣に私を凝視していて、彼をだましたりごまかしたりするのは良心が咎めた。

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