離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「ねえ、今度旦那様と三人で一緒に食事でもどう? 結婚式ではあまりお話できなかったし、幸せそうなふたりを間近で見たいの」
「はい、ぜひ」
幸せそうなふたり、なんて言われると恥ずかしいけれど、真紘さんは人と話すのが好きだから喜んで応じてくれるだろう。
「約束ね。楽しみだわ~」
雨音さんはにっこり微笑んで、ようやく箸を持つ。
それから話題は仕事のことへと移り、一時間の昼休みはあっという間に過ぎていった。
多い時では一日で数百人の来客応対をすることもあるが、金曜日は土日と繋げて有休を取得する社員もおりアポ自体が少なめの傾向にあるので、それほど忙しくなかった。
事務作業を含め定時の午後六時には仕事を終え、まばらに社員たちが行き交うエントランスを後にする。
「柳澤さん」
その時、背後から誰かに呼ばれ、私は足を止めた。振り返った瞬間、緊張でぴっと背筋が伸びる。
グレンチェックのスリーピーススーツ、綺麗に整えられた口ひげ、半分だけ額を見せた清潔感のある黒髪ショートヘア、色っぽい垂れ目。
四十代半ばのダンディなこの男性は、天馬モーターズの常務取締役、前門さんだ。