離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

「美味しかったですね~。ボイルしただけの野菜がチーズであんなに極上の味になるとは」
「今度家でもやる?」
「えっ、できるんですか?」
「もちろん。品揃えのいいスーパーなら売ってるよ。ラクレットチーズ」

 楽しい食事会を終えた後、余韻に浸るように店先にとどまりそんな話をしていた。

 真紘さんの言葉に私も雨音さんも目を輝かせ、「食べた~い」と声をそろえた。

「じゃ、今度は我が家で食事会にしましょう」
「ふふっ、楽しみにしてます。おふたりの愛の巣が気になるし」

 真紘さんの提案に、雨音さんが微笑んだその時だった。

「あ、ごめんなさい。電話みたい」

 雨音さんがそう言って、バッグからスマホを取り出す。画面を見た彼女は一瞬眉間に皺を寄せ、くるりと私たちに背を向ける。

「はい、榎本です。……今からですか? それはちょっと」

 雨音さんの声が、なんとなく焦っている。思わず心配になるが、人の電話を盗み聞きするのもよくないし、と私はなにげなく真紘さんを見上げる。

 私の視線に気づいた彼は、口の端を吊り上げて意地悪く笑った。

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