離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

 言い合っている途中、雨音さんのイライラオーラがさらに増した気がして、私は口を噤んだ。一方の真紘さんは飄々とした態度で、悪びれたそぶりもない。

 真紘さんも少しは謝ってくれてもいいのに……!

「じゃあ佳乃ちゃん、また会社でね。真紘さんも、また」
「ええ、お気をつけて。榎本さん」
「おやすみなさい、雨音さん」

 私の挨拶に笑みを返すと、雨音さんは私たちに背を向け歩きだす。その後姿を見送りながら、私は真紘さんに尋ねた。

「雨音さん、いい人だったでしょう?」
「うーん……どうかな。一度話しただけじゃわからない」

 真紘さんにしては珍しい、歯切れの悪い返事。私にとっては大好きな先輩なのに、同じ感覚を共有できず無性に悔しい。

「私には、一度会ったその日に求婚してきたのに?」
「そりゃ、佳乃は運命の相手だもん」
「……そうですか」

 なんか、軽くあしらわれた感じがする。もうちょっと具体的な理由が欲しかったな。

 真紘さんは少々不機嫌になった私の手を取り、指を絡めて繋ぐ。

「小っちゃくてかわいいね、佳乃の手は」

 私は返事をしなかったけれど、手を繋いでいる間に自然と絆されてしまい、家に帰り着く頃には、機嫌が直っていた。


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