離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

 食事を始めて二時間ほど過ぎたところで、私はお手洗いに立った。軽くお酒を飲んだので足取りが少し怪しかったが、以前真紘さんの前で酔っぱらったほどではない。

 用を足して軽くメイクを直し、父も喜んでくれたしいい誕生会になったと、上機嫌に部屋へ戻る。

 そして、襖に手を掛けようとした瞬間だった。

「佳乃はきみにぞっこんのようじゃないか。さすがは策士で有名な真紘くん、噂通り女性を手懐けるのもお手の物だな」

 したたかに酔った父の声が襖越しに聞こえ、私はその場で硬直した。

 噂通りって何? 手懐ける、だなんてまるでペットに対して使うような表現にも、胸がざわつく。

「いえ、噂が独り歩きしているだけで、僕は元々モテません。だからこそ、こんな僕を選んでくれた佳乃さんのことは心から大切にしたいと思っているんです」

 真紘さん……。その言葉、信じていいんだよね? 父は議員なんてやっているせいで疑り深すぎるのだ。

 やきもきしながら襖の前で息を殺していると、続けてぱちぱちと手を叩く音が聞こえた。

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