離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

「メイク、綺麗になってる。だから遅くなった……で、正解?」

 無邪気に小首を傾げた彼はいつもの真紘さんだ。ささいなメイクの変化をひと目で見抜いてくれるのもうれしい。うれしいはずなのに……胸に、小さなしこりが残る。

 父の言ったような〝策士で有名な真紘さん〟が、彼の姿に重なって、私を惑わせる。

「はい、正解です」

 それでもなんとかいつも通りの態度を心掛け、彼に微笑みかける。真紘さんは「よし」と私にだけわかる程度にガッツポーズをした。

 少年っぽい彼の仕草をいつもなら好ましく思うはずが、今日の私は複雑な心境だった。

 父とのやり取りを聞いた後では、真紘さんの言動のほとんどが私の気を引くための演出のような気がしてしまうのだ。

 結局それ以降、私は父の誕生会を素直に楽しむことはできなかった。




「……考え事?」

 頭上から常務の声が降ってきて、我に返った。高層階の常務室から見える空は、すでに夜の帳が下りている。

 パソコンの時計は十八時四十分。すでに仕事は終わっているのに、昨日の父の誕生会の一件が尾を引いて、画面を睨んだままフリーズしていたらしい。

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