離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

「雨音さん……」

 思わず小さく呟くと、司波さんが反応する。

「知り合いですか?」
「ええ、あの……私の会社の先輩で」

 司波さんが眉根を寄せ、真紘さんの背中を睨みつける。

 私は怒りより戸惑いの方が大きく、うまく状況を飲み込めない。

 どうしてこんな風に隠れてふたりで会っているの? 理由があって会うのなら、私にひと言あってもいいじゃない。それとも、私には言えない関係なの……?

 嫌な妄想ばかりが膨らんで、それ以上彼らを見ていられなくなった。じわっと目の端に浮かんんだ涙を隠すように俯くと、司波さんが怪訝そうに呟く。

「……なにやってるんだ? アイツ」

 気になったけれど直接自分の目で確認する勇気はない。もしふたりがキスをしたなんて言われたらどうしようと恐怖におびえながら、司波さんに尋ねる。

「あの、どうかしましたか?」
「柳澤がカウンターの中に入って……酒を作り始めました」
「えっ?」

 予想外の返答に、思わず顔を上げてカウンターの方を見る。

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