離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
さっきまでジャケットを身に着けていた真紘さんだが、今はベストと腕まくりしたシャツという格好になっていて、確かにカウンターの中にいた。
そして、家で私のためにカクテルを作ってくれる時と同じように、雨音さんの前でグラスになにかのお酒を注いでいる。
客である彼にどうしてそんな行動が許されているのかはわからないが、目的はおそらく雨音さんを喜ばせるためだろう。
家で私のためにカクテルを作ってくれるのも、彼の中にある〝女性を落とすセオリー〟みたいなものに従っていただけ、とか……。
切なさに胸がギュッと痛みを覚えたその時、顔を上げた真紘さんの目がまっすぐ私をとらえ、一瞬視線が交錯した。店内は薄暗いけれど、勘違いではないと思う。
私は即座に視線を逸らしたが、心臓はバクバクうるさい。
ここにいることがバレた……? でも、後ろめたいことをしているのは真紘さんの方じゃない。
逃げることもできずにジッと身を硬くしていると、私たちのテーブルに静かな足音が近づいてきた。
「佳乃」