離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

 真紘さんの声だとわかったが、顔を上げられない。

 決定的なことを告げられるのが怖いので、耳もふさぎたいくらいだ。

「お前とは話したくないってよ。ま、あんな姿見せられたらそうなるのが自然だ」

 司波さんは私の味方をしてくれるらしく、真紘さんを責めるようにそう言った。

 彼自身も、友人として真紘さんに幻滅した部分があるのだろう。

「不安にさせて悪かったと思ってる。でも、誤解なんだ。俺の気持ちは……」

 そこで彼が言葉を切った後、テーブルにコトッとグラスが置かれる音が二回した。

 ようやく顔を上げると、私の前には、真っ赤なチェリーの飾られたオレンジ色のカクテル、司波さんの前には、カクテルというよりシャーベットのような状態の白いドリンクが置かれていた。

「ここ、俺が若い時にバイトしてたバーでさ。いつか本気で好きな相手が見つかったら、カクテルで想いを伝えるのが夢だったんだ。だからそれ、どうぞ」
「でも……」

 客である彼がカウンターに入るのを許された理由はわかった。しかし、素直に口をつける気になどなれず、私はグラスをジッと睨む。

 浮気相手を喜ばせるためにカクテルを出して、それがバレたら妻の機嫌を取るのにも同じ手を使うの?

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