離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです

「おい、俺のはなんでフローズンマルガリータなんだ?」

 司波さんが少々不機嫌そうに真紘さんを見上げる。彼の白いカクテルは、フローズンマルガリータという名前らしい。

「だって、子ども生まれてから花純ちゃんに構ってもらえる時間が減って寂しいんだろ? だから〝元気を出して〟って意味のこれで励ましてやろうかと」
「……余計なお世話だ」

 司波さんはぼそりと吐き捨てると、添えられたスプーンを使ってシャーベット状のカクテルを口に運ぶ。その仏頂面を見る限り、真紘さんの言葉は図星だったようだ。

 羨ましいな、お子さんが生まれても夫婦仲がいいなんて。

「佳乃も早く聞いてくれないかな~、このカクテルの意味」

真紘さんが、甘ったるい口調でそう言った。ちらりと向けられた視線は暗い店内でも悪戯っぽく光っていて、こんな時なのにどきりと胸が跳ねる。

 でも、今日ばかりは騙されないんだから。

「その前に説明すべきことがあるはずです。どうして雨音さんと一緒に?」

 勇気を出して、核心に触れる。真紘さんの態度を見ていると、どうも〝浮気がバレた夫〟
という感じがしない。

 開き直っているだけかもしれないが、なにか事情があるのだとしたら、私には知る権利があるはずだ。

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