離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
専務は身を屈め、追い詰められた私の耳に、唇を近づける。
「国会議員朝香重蔵の娘と、社内で不倫する、とかな。話題性バツグンだ」
ぞわわわ、と全身に寒気が走った。
この人、ダメだ……! 専務というより、人間失格!
もうクビになっても構わないから、どうにかして逃げなくちゃ。
「しっかし、ちいせぇ胸だな。勃つかな俺」
不意に私の胸を見下ろした専務が、下品な発言をする。
プツン――。堪忍袋の緒が切れた。
「私の胸が大きかろうと小さかろうと、あなたに関係ありませんっ!」
怒りのままにそう叫んだ私は、手を振り上げて専務の頬を思い切りはたいた。
静かな室内に、パシン、と乾いた音が響く。
「これで失礼します」
それだけ言い残し、専務に背を向ける。扉を出る直前に見た専務は、叩かれた頬に触れ、呆然としていた。
私は下に向かうエレベーターに乗り込んだ直後、頭を抱えてしゃがみ込む。
「さすがに平手打ちはやりすぎた。クビ決定だ……」
でも、我慢できなかったんだもの。せっかく真紘さんのお陰で存在意義を取り戻したこの胸を馬鹿にされて、ついカッとなってしまった。
「どうしよう……」
来月から無職? せっかく秘書の仕事、やる気になっていたのにな。
常務にも迷惑をかけてしまう。秘書課の先輩にも。
迫りくる後悔の波に押しつぶされそうになりながら、私はため息をついた。