離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「真紘さん……私、職を失うかもしれません」
「えっ? どうしたの急に」
その日に限って真紘さんの帰りは遅く、日付が変わるギリギリに帰宅した。
どうしても今日中に専務の話を聞いてほしかったので、帰宅時間を聞いてからソワソワと彼を待っていた。
「シャワーだけ軽く浴びるから待ってて。今日、大量の資料を整理したから汗かいちゃって」
そう言ってバスルームに向かおうとする彼のシャツを、ギュッと掴んで引き留める。
不思議そうに振り返った真紘さんを、私は無言のままジッと見つめた。
真紘さんは、やるべきことを済ませてから、私の話をゆっくり聞いてくれようとしている。
それはわかっているけれど、離れたくない。会社で専務と対峙した時、恐怖や不安や怒りなど、色々な感情に目まぐるしく襲われたせいもあるのだろう。
「……一緒に入る?」
身を屈めた真紘さんが、そう言って私の瞳を覗く。
私はすでにお風呂を済ませていたけれど、照れながらもコクッと頷く。真紘さんは優しく微笑んで、頭をポンポンしてくれた。