離婚を申し出た政略妻は、キャリア官僚の独占愛に甘く溶かされそうです
「あら? もしかして佳乃さん?」
パッと顔を上げた先にいたのは、黒のワンピースに同じく黒の帽子を合わせた背の高い婦人。地味な格好をしているにもかかわらず、一般人とは違うオーラが隠しきれていない。さすがは世界的な元女優だ。
「お義母様……?」
「近くを通ったから、寄ってみたの。連絡もなしにごめんなさいね」
無邪気に微笑んだその顔が真紘さんに重なり、胸にズキッと痛みが走る。
「すみません、真紘さんはちょっと外出中で……」
「そうだったのね。佳乃さんは時間ある? ケーキを買ってきたから、お茶でもどうかと思って」
お母様は意気揚々と、手に提げていた有名洋菓子店の紙袋を掲げた。とても気まずいタイミングだが、手土産まで用意して来てくれたのに追い返すわけにもいかない。
「どうぞ、上がってください」
「ありがとう。お邪魔するわ」
お母様をマンションに内に招いて、一緒にエレベーターに乗る。
途中で真紘さんが帰ってきたらどうしよう。彼のことだから、うまく取り繕うかな……。