◇水嶺のフィラメント◇
 どんなにか喜びを全身で表したかったか知れないが、周囲に二人が既知の間柄であることは悟られてはいけない。

 アンは子供心にあの地下洞での経緯(いきさつ)を口外すべきでないと知っていた。

 「あの時」のフォルテには興奮気味に語ったが、嬉しそうな幼き姫を見て、「これは姫さまとわたくしめだけの秘密にいたしましょう」とフォルテが提案を持ちかけたからだ。

 同年代の友に恵まれず退屈な日々を過ごしてきた王女を想っての、優しい侍女からの献言であった。

 だから自分を連れ立った黒い影のことも、以降頻繁にレインと落ち合ってきたことも、アンはフォルテ以外の誰にも明かさずにいた。

 知られればきっと洞窟への立ち入りを禁じられてしまう。

 それを幼いアンも理解して、五年もの間レインとフォルテと共に秘密を守り通してきたのだった。

 幸い年齢が近いこともあり、国王同士の会談の間、レインはアンに王宮を案内するように言い付けられて、二人はついに公での自由な時間を得た。

 その時王宮の地下からこっそり導かれたのがこの森だ。


< 96 / 217 >

この作品をシェア

pagetop