◇水嶺のフィラメント◇
 ナフィルと同じく石壁に触れるや回転し、その向こうには同じように地下道が続いていた。

 二手に分かれる三叉路が現れたことだけが、ナフィルのそれとは違っている。

 レインが選んだ左路はやがて上り坂となり、再び突き当たった壁を回転させれば、この森のこの広場に辿り着けるのであった。

 アンはナフィルにはない瑞々(みずみず)しい森と、豊富な水量を(たた)える湖の広さに感動した。

 二人は湖畔を駆けまわり、岸辺で水遊びをし、この広場で一休みをした。

 あの鉄格子に邪魔されずレインの傍に居られることが、これほど嬉しく楽しいひとときになるとは!

 きっとそうであろうと予測はしていても、実感はそれを遥かに上回るものだった。

 両端の切株にそれぞれ腰掛け、真ん中の切株にはポケットに隠してきた異国の菓子を広げる。

 遠く南国より訪れた大臣からの戴き物である。

 リムナトの菓子に比べてねっとりとした強い甘さに、驚いたレインのまん丸い瞳をふと思い出した。

 切り抜かれた空から注ぐ月光に照らされた切株は、アンの心に眠る想い出を呼び覚ましたようだった。


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