一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ


弟との会話はたったそれだけで終わった。

「サイテーか……」

愛しているからこそ許せなかったと匡が言っても、翔は理解しないだろう。
自分より若くて明るくて女性を楽しませることに長けている弟の存在を、匡はどこかで警戒していたのだ。

「弟に嫉妬した、サイテーな男ってことか」

匡は独り寝のベッドに横たわったが、考えはまとまらない。
ふたりの間になにもなかったと信じている。だが、信じ切れない自分も確かにいるのだ。
延々と、その繰り返し。

(紗羽……)

その夜もよく眠れないまま、匡は朝を迎えた。


***


ホテルから出社した匡は、そろそろ屋敷に帰ってみようと考えていた。
あれからひと月以上が経った。
翔に言われたからではないが、落ち着いて紗羽に向き合ってみようと思ったのだ。

急ぎの仕事をすませて、紗羽と改めて別荘に行くのもいいだろう。

(紗羽を信じるんだ……)

匡は自分に言いきかせていた。

(大丈夫だ。冷静に話せる)

週刊誌が出た当初は、興味本位な取材や隠れてスクープを狙うカメラマンの姿が匡の周りでも見られた。
近ごろやっと落ち着いて、マスコミの姿は見られなくなった。
冷静な対応をモリスエ・エレクトロニクスが心がけたからか、一時的に株価は下がったが会社の業務にも大きな支障は出なかった。

(今日こそは……)

複雑な思いを抱えて働いていたら、山根が慌しく社長室に入ってきた。

「社長!」

「なんだ?」
「こ、このようなものが……」

山根が封筒から書類を出して匡に見せた。
差出人は清水と弁護士。
そして中身はすでに紗羽の署名がなされた離婚届だった。






< 113 / 154 >

この作品をシェア

pagetop