一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
唐突な申し出に、紗羽は思わずポカンと口を開けてしまった。
「紗羽さん、お口!」
「あ! 失礼しました」
三船に言われて慌てて口を閉じる。
その仕草は愛らしく、場の雰囲気を和らげるものだった。
「すみません、紗羽さん。うちの社長が言葉が足りなくて」
黒縁眼鏡のブリッジを持ち上げながら山根が詫びてきたが、まだ紗羽にはよくわからない。
「君のお父さんにはとてもお世話になったんだ。ここは広いし、モリスエ・エレクトロニクスには優秀な学生のための奨学金もある。ここに住んで、しっかり勉強してほしい」
「えっ?」
「君ひとりでは不安だろうから、三船さんにも住み込みで家政婦をしてもらうことになっている」
「よろしくお願いいたします。紗羽さん」
ニコニコと三船が笑っているので、紗羽も少し落ち着いてきた。
「あの、そんなによくしていただいていいんでしょうか?」
「我社と小椋電子とは長い付き合いだ。君のお父さんにも恩がある。遠慮しなくて大丈夫だよ」
匡は優しい口調で紗羽が安心するように話しかけてくれた。
その低くて甘い声で『大丈夫』言われたら、もう紗羽には断ることはできない。
その言葉ひとつに、自分の人生を賭けたのだ。
「これからどうぞよろしくお願いいたします」
頭を下げた後、まるで結婚の挨拶のようだと思ってしまった紗羽はひとり顔を赤くしていた。