一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
(いつまでたっても、子どもだと思われているみたい)
紗羽が一番驚いたのは、夏休みだ。
テニスサークルの泊りがけの合宿で箱根へ行った時に、わざわざ匡が迎えに来てくれたのだ。
忙しい人なのに週末だからと車を飛ばして『たまにはのんびり休みを取ろうと思ったんだ』と言う。
紗羽が気を遣わないように言ってくれたことはすぐにわかった。
普段はゆっくり話す時間もないから、ドライブがてらふたりの時間を作ってくれたのだろう。
車の中ではお喋りばかりしていた。もっぱら話すのは紗羽で、匡は上手な聞き役だ。
大学のこと、ゆかりとの笑いを誘うエピソード、始めたばかりのテニスのこと、そして将来の夢。
「もっと英語の勉強がしたい」
そう紗羽が言ったのを覚えていたのか、東京に帰ってから匡は専門的な会話が学べる英会話教室を紹介してくれた。
匡が紗羽の希望を大切にしてくれているのが嬉しかった。
でも、恩人の娘だから世話を焼いてくれているんだと紗羽は自分に言いきかせた。
(きっと年の離れた妹か、姪っ子のように思ってくれているんだ)
匡が女性として好意を持ってくれていると勘違いすると、後できっと悲しい思いをする。
そろそろ彼も結婚して、大会社の社長として信頼を得なければならない年齢だ。
森末家の後継者も必要だろう。
匡が妻を迎える前に、自分はあの家から出ていかなければならない。
(告白して、今の関係を失いたくない。妹でもなんでも、今のままで十分だから……)
いち日でも長く匡の側にいさせてほしいと紗羽は願っていた。