一度は消えた恋ですが――冷徹御曹司は想い続けた花嫁に何度でも愛を放つ
大学二年生になった紗羽は、英会話に力を入れている。
難しいエレクトロニクスの専門用語を勉強して、通訳や翻訳の力をつけたいと思っていた。
そうすれば社会人になってからは、仕事の面で匡の力になれるはずだ。
会社からの奨学金は返済不要と言われているが、彼が紗羽に残されたわずかな遺産には手をつけずに済むようにすべての費用を負担してくれているのだ。
せめて社会人になった時に、彼の役に立てるようになるのが紗羽の目標だった。
八月中旬の蒸し暑い夕方、紗羽が英会話の学校から帰宅すると三船が困った顔をして庭に佇んでいた。
「どうしたの? 三船さん」
「あ、紗羽さん。どうも昨日からスプリンクラーの調子が悪くて………」
「大変。水やりができなかったら、この暑さで芝生が枯れてしまう」
「業者に修理を頼んだんですが、お盆休みなんですよ」
一週間は工事ができないと言われて三船も困っていたのだろう。
この広さに水やりをするのは、さすがに三船の年齢では無理だ。
「じゃあ、私にやらせて! 水遊びみたいだし」
「よろしいんですか? 助かります、紗羽さん」
さっそく紗羽はタンクトップとショートパンツに着替えてくると、ホースを使って水やりを始めた。
大変な作業だったが、夕日に向かって水を高く撒くときれいな虹がかかるのが楽しい。
面白くてつい、少しでも高くと水をまき上げる。そうすると風にあおられて自分にも水しぶきが飛んできた。
「ひゃあ~」
子どもの頃に戻ったようで、思いがけず楽しい時間になった。
広い庭の端から端まで、水栓の場所を変えたりホースを巻いたり伸ばしたりして楽しんだ。
そのうち、紗羽は汗と水でびしょびしょになっていた。
「君はなにをやってるんだ?」
ふいに、呆れたような低い声がうしろから聞こえた。