ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

 メッセージを送って満足気な彼女を硬い声で呼んだ。
 運営側に命を盾にされている同士だと思えば、いくらか恐れる気持ちも薄まる。

「……元に戻して」

「え? 嫌だよ、そんなことしたら逃げるでしょ」

 戦う手段を持たない以上、逃げるしかない。
 当然そのつもりなのだが、首を横に振った小春は毅然と見据える。

「わたしが死んだら困るんでしょ? 解いてくれないなら、このまま……石化されたまま死ぬ」

 瑠奈は慎重に考え込んだ。
 その場合も瑠奈が殺害した判定になるのだろうか。

 石化している時点で関与は確実と言えるし、もしその判定になるのなら、困るどころの話ではない。

 蓮への餌は撒いた。
 もう小春の役目はないに等しい。
 もともと用があるのは、魔術師である蓮の方なのだ。

「……分かったよ。でも逃げずに一応ここにいてよね。蓮くん、小春ちゃんが無事って分かったらあたしと戦ってくれないかもしんないからさ」

 瑠奈は言いながら再びステッキを振った。今度は石化が解けていく。

 足に感覚が戻ると、長時間正座をしていたときのように強く痺れた。
 小春は思わず、がくんと座り込む。

「その様子じゃしばらくは動けないと思うけど、もし逃げたら────」

 瑠奈は鞄から何かを取り出した。消えたはずの和泉の腕だった。

 楽しそうな笑みをたたえ、掲げた彫像を離す。
 コンクリートに叩きつけられた腕はばらばらに砕け散った。

「こうなるから」

 息をのむと同時にぞくりとした。

 知らなかった。瑠奈がこれほど残虐な本性を持ち合わせているなんて。
 それは、あるいはこのゲームがそうさせているのかもしれないけれど。

「殺したら確かにまずいことになるんだけど、これくらいなら問題ないからね」

 ステッキ片手に小春と距離を詰める。

「勘違いしないでよ? 小春ちゃんに危害を加えることができないわけじゃない。あ、何ならいまやっとく? (いまし)めのために……」

 歩み寄ってくる瑠奈から、反射的にあとずさった。

 まだ、足には力が入らない。立ち上がることすらできない。

(どうしよう……! 助けて、誰か────)

 心臓がばくばくと脈打ち、頭の中に危険信号が鳴り響く。

 とん、と小春の背に壁が当たった。絶望が立ちはだかっていた。
 瑠奈は揚々とステッキを掲げる。

「小春ちゃん、右利きだったよね。……なら、右手にしよっか?」
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