ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
────そして、その夜。
星ヶ丘高校の屋上で一悶着あり、追い詰められた大雅をぎりぎりで助けるに至った。
拠点である廃屋に帰り着くと、ふわぁ、とあくびをした彼を窺う。
「眠気、大丈夫?」
「む……少し眠いけどいまのところは平気。辛くなってきたら一旦起こしにいこうかなー。あ、でも俺あいつにキスするのやだな」
おどけるように言う至に、小春は思わず小さく笑った。
「…………」
その笑顔に、少しほっとした。
明日になったらまたすべてを忘れて、不安に苛まれるとしても。
ほんの一時でも、心安らぐ瞬間が訪れたことは嬉しい。
────翌日、廃屋に訪問者が現れた。
「誰かおる? ゲームのことで話があんねんけど」
この場所は至と小春、日菜以外は知らないはずなのに。
それに、魔術師であることを隠そうともしない。
「……小春ちゃん。隠れてな」
警戒した至に従って、結界の帳を下ろす。
彼女が姿を消したのを確かめてから扉を開けると、そこには名花高校の制服をまとう女子生徒がいた。
「きみ、だーれ?」
そう首を傾げると、彼女は切羽詰まったような表情を浮かべる。
「あたし、有栖川美兎。身体の大きさを操れる魔術師な。あんたに助けて欲しくて来たんや」
「助けてって、どうしたの?」
「……これまで、ずっとひとりでどうにか生き残ってきた。けど、もう怖くてたまらんの。どうしたらええのか分からへん」
至は吟味するように目を細めた。
「そこで、あんたに頼みがある。あたしと手組まへん? 共闘しよう!」
懇願する傍ら、アリスは鋭く周囲を見回した。
至側の魔術師が何人いるのか正確には分からないものの、少なくともいまこの場には彼ひとりしかいないようだ。
いや、もうひとりいる。
床に影が伸びていた。
「ねぇ、そもそも何でここに俺がいるって分かったの?」
アリスはひとまず気づかないふりをして、影から視線を戻した。
「あたしはいわゆる情報屋ってやつで、大方の魔術師について把握してんねん」
至は、はたとひらめく。
それなら「蓮」のことも知っているかもしれない。
「ふーん。その中で、何で俺を選んだの? どこまで知ってる?」
「あんたが“最凶”と謳われる如月冬真を実質倒したって聞いた。あんたを頼った理由は明快や。“強いから”。触れるだけで相手を眠らせることができるんやろ?」
どうやら、異能の全容までは把握していないようだ。
至は扉に置いていた腕を下ろして組んだ。
「共闘ねぇ……」
「そう、そんで仲間になろう。あたしにできることは何でもするから」
アリスは最後のひと押しとでも言わんばかりに告げる。
「…………」
最初こそか弱い雰囲気を醸していた割に、主張も態度もしたたかなものだ。
ふ、と至は微笑んだ。
「悪いけど……俺、特定の誰かに肩入れしたりしないの。ニュートラルってわけ。だから共闘も仲間も興味ないし必要ない」
思わぬ言葉にアリスは呆気に取られた。
とりつく島もないような拒絶に、とっさに声も出ない。
「それに、そもそもきみからは嘘をついてる香りがする。……だから、おやすみ」