ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
とん、とアリスの額に触れる。
眠りに落ちた彼女を抱えて振り向くと、姿を現した小春と目が合った。
驚いたように身を強張らせる彼女に、肩をすくめて笑う。
「代償で右目を失ったからかな。代わりに鼻が利くんだよね、俺。だから俺に嘘は通用しないんだよ」
「嘘って……?」
「さあ? でも、何ていうかな。野心みたいなものが隠しきれてないんだよね、彼女。星ヶ丘の彼と同じようなにおいがする。できれば、このまま起こさずにいたいかな」
勘でしかないけれど、星ヶ丘の彼、つまり冬真と同類のにおいがした。
「情報源としては役立つかもしれないけど、俺に関する情報も完璧じゃなかった。情報屋ってのは確かでも、精度はいまひとつ。あんまり期待できない」
部屋の隅にアリスを寝かせておく。
小春はブランケット代わりにカーディガンをかけてやった。
彼はあくびをしつつ、ソファーに腰を下ろした。
冬真とアリス、ふたりを眠らせた状態では、睡魔は然ることながら身体も重くだるい。
ふいにぼんやりしてしまう。
「大丈夫……?」
「……へーき。でも、こうしてると眠っちゃいそうだから外歩こうかな」
「なら、わたしも行く」
────ふたりは光学迷彩の結界に入ったまま廃屋を出た。
いつの間にか、こうして姿を隠すことが習慣になりつつあった。
祈祷師をはじめ、得体の知れない敵からは隠れておくことがベターに思える。
蓮と出くわす可能性を考えて、名花高校の周辺を歩いた。
それと同時に、少しでも小春の記憶が戻らないか期待した。
けれど、いずれも結果は芳しくなかった。
一旦諦めて廃屋へ戻る道中、思わぬ光景を目の当たりにする。
半狐面をつけた男からの襲撃に遭っている4人の高校生たち。
水飛沫が散って、氷が尖って、炎が駆け巡る。
至は直感的にひらめくものがあった。
「小春ちゃん、あのキツネくんを撃って」
「え? でも……」
「大丈夫、あいつは魔術師じゃない」
……たぶん、と心の中でつけ加えておく。
小春は言われた通りに手を構えると、指先から光線を撃ち込む。
怯んだ祈祷師を至が眠らせると、閃光とともに彼は消えた。
────至の眠気はかなり限界に近かった。
気を抜けば瞼が落ちてくる上、身体が重くてだるい。
頭もぼんやりと霧が晴れない。
やはり3人が限界だ。
けれど、眠るわけにはいかない。誰を起こしてもまずい。
「なあ、おまえに聞きたいことがある」
「ふあぁ……。その前に、きみたちは誰? 何であいつに狙われてたの?」
「ああ、悪ぃ……。俺は向井蓮で、こいつは────」
「えっ、蓮……? きみが? 向井蓮くん?」
「そうだけど?」
何とか睡魔をあしらいながら聞いていたところ、一気に目が覚めた気分だった。
見た限り、彼が悪意ある人間とは思えない。
至は思わず小春を窺うけれど、影からは戸惑いが見て取れた。
いまの彼女の状態を考えると、いきなり引き渡すのも酷だろう。
蓮と会えただけでも、その人となりが分かっただけでも、十分な収穫だと一旦割り切る。
(彼らの拠点も聞いておきたいけど……)