ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
なんて考えていると、再びあくびがこぼれる。
思考もまとまらず、耐えきれそうになかった。
「ごめんけど、そろそろ限界。今日のところは帰る」
「な……おい! 逃げるのかよ!?」
蓮の感情は理解できる。怒って当然だ。
それでも、いまはとても冷静に話していられる状態ではない。
────その晩、睡魔に抗いきれずに至は眠りに落ちた。
廃屋では翌朝、相対的にアリスが目を覚ましてしまっていた。
「……まずいことになっちゃった」
記憶を失った小春に手早く説明を済ませると、至は凜として続ける。
「戸惑うと思うけど、いまはゆっくり説明してる時間がない。急いで行かなきゃいけないところがある。きみの力を貸してくれ」
そうして廃トンネルで瑚太郎を眠らせ、蓮たちに小春の状態を明かすに至った。
────状況がまるきり変わったのは今朝のこと。
至も小春もアリスも拠点の廃屋で目を覚ました。
例によって記憶のない小春に、あらゆる説明を繰り返す。
「……それと、向井蓮くんって子が火炎の魔術師。彼は小春ちゃんのことをすごーく大事に思ってくれてるみたいだよ。たぶん会ったらすぐに分かると思う」
「えっと……」
「戸惑うよね、分かるよ。でも、怖がらないで。きみはひとりじゃないから」
そう言って微笑みかけると、腕をもたげて身体を伸ばした。
「さーて……ちょっと外の空気でも吸ってこようかな」
頭の中がいっぱいいっぱいになって、混乱を極めた小春もそのあとに続いた。
けれど、扉を開けた至はなぜかすぐに足を止める。
そのまま動かない彼を不思議そうに見上げた。
「至くん? どうし────」
「来ちゃだめだ」
背を向けたまま厳しい声を返され、反射的に歩が止まる。
どうしたのだろう。
戸惑っているうちに、ざくっと何かが突き刺さるような音がした。
「……!?」
まず、赤色が目に飛び込んできた。
彼岸花が咲いたかのように、至の背中がみるみる血で染まっていく。
その中心から突き出た太い枯れ枝から、ぽたぽたと鮮血が滴り落ちる。
何が起きたのか分からなかった。
至の身体を、棘だらけの樹枝が貫いている。
唐突な事態に、混乱も理解も追いつかない。
「あれ? 心臓は外しちゃったか、残念。……なんて、そんなつまらない殺し方しないけどね」
その向こう側に見えたひとりの男子高校生が笑った。
その足元には遺体が転がっている。
「……っ」
至の身体から剣のような樹枝が引き抜かれた。
傷から大量の血があふれたかと思うと、血を吐いて地面に膝をつく。
みるみる血溜まりが広がっていく。
「いや……っ!!」