ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
思わず悲鳴を上げた小春はあとずさった。
「逃げて……」
弱々しい呼吸を繰り返す至が絞り出すように言う。
小春は混乱したまま、とっさにアリスの姿を捜すも周囲には見当たらなかった。
つい先ほどまで廃屋の中にいたはずなのに。
そのときだった。
大雅からテレパシーを受けたのは。
「助けて」
『……え?』
「至くんが……っ」
────すべてが後手に回って、冬真とアリスにしてやられた。
結果として、至は命を落とす羽目になった。
◆
「……っ、至くん……」
その死を改めて認識した小春は、呼吸を震わせて咽び泣いた。
先ほどの比ではないくらい、感情が強く揺さぶられる。
与えられてばかりで、何も返せないままこんなことになってしまった。
悔しい。悔しくてたまらない。
自分の無力さが。
大切な色々を忘れてしまっていたことが。
「…………」
沈痛な表情になったり、息をのんだり、憤ったりと紅を除いてそれぞれ顔色を変えた。
彼女だけは終始、無表情だ。
「……おまえは悪くねぇ。小春のせいじゃねぇからな」
言葉を探すように黙り込んで、それでも結局、見つかる前に口をついていた。
蓮の言葉を受けた小春の頬を再び涙が伝う。
「……っ」
自責と後悔、罪悪感。
途方もない感情でがんじがらめになっていた心がほどけて、息ができた。
蓮は彼女の背を撫でつつ思い返す。
雪乃いわく莉子と雄星のふたりも魔術師だという。
それなら、彼女の言っていた意味が分かったような気がした。
『何だったら、俺が言ってやろうか? 莉子と雄星、あいつらふたりとも締めて────』
『いいよ、それは。あたしがやってるから』
きっと、復讐しては時を戻しているのだろう。
雪乃のあの性格からして、何度殺しても足りない相手を、実際に何度も殺している。
何度も殺すために、巻き戻しているわけだ。
「八雲を失ったのは……痛手だな」
ぽつりと律が呟く。
殺さずして敵を封じる手段が潰えたのだ。
「冬真も真性のクズだけど、裏切ったアリスがよりにもよってあいつにつくなんてな」
こうなった以上、こちらの情報は冬真に筒抜けだろう。
そのときだった。
唐突に、ぷつりと大雅の頭の中でひとつの意識が途切れる。
「……!」
ふいに切断されてしまったのは、うららのテレパシーだ。
「うらら……? おい、うらら!」
大雅は慌てて呼びかけるも、一向に繋がらない。
嫌な予感が渦巻いた。
(この、感じは────)
そんなはずない、と思うけれど、この感覚は初めてではない。
「どうしたんだよ……?」
「……死んだ。うららが」
端的なその言葉は、かえって重々しくその事実を知らしめることになった。