ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

「……ああ、そういうこと。如月。あんた、まんまと桐生たちのてのひらの上で転がされてんで」

 はっとそれぞれ息をのむ。
 冬真は怪訝そうに首を傾げた。

「敵の術中(じゅっちゅう)(はま)っとる場合か? 唯一の生存者になるとか言っとったくせに滑稽(こっけい)やなぁ」

 挑発でもするかのような口ぶりだったけれど、アリスの意図は明白だった。

 彼女の言葉は、冬真の記憶というパンドラの箱を開ける禁句()でしかない。

「このままじゃ誰が操り人形か分かったもんやないなぁ」

「うるせぇ! 黙れよ」

 慌てて蓮が叫ぶも、冬真はふいに顔を歪めた。
 頭の奥が(うず)いて、ちかちかと瞼の裏が明滅(めいめつ)する。

「……っ」

「冬真くん……!」

 このままじゃまずい。
 場に緊張感と焦りが走った、そのときだった。

 ぱちん、と紅が指を鳴らす。

 静止した世界の中、つつくようにして小さなアリスに触れる。

「このまま踏み潰してやろうか?」

 威圧するように見下ろして言った。

 昨日の皮肉だろうか。
 慌てて本来のサイズに戻ったアリスは紅を()めつける。

「昨日はよくもやってくれたな」

「あの程度で効いたのか? 存外(もろ)いのだな」

「何やて……!?」

「諦めることだ。如月がこちらに落ちたいま、もうおまえに勝ち目などない」

「ばーか、もともとそんな当てにしてへんから。どうせ、そのうち殺すつもりやったし。最後に勝つのはこのあたし」

 アリスは腕を組んで、冷ややかな笑みをたたえる。

「あんたらのことも潰したるわ」

「言葉に気をつけろ。この停止した世界でおまえを殺すのは容易なことだ」

 その言葉を受け、鼻先で笑う。

「なに言うてんねん、あんたらには殺せんやろ」

「勘違いするな。それは我々が弱腰なのではなく、水無瀬氏の温情だぞ。悪いがわたしはそれほど優しくない」

 どんなに歩み寄って信じようとしたところで、所詮、悪人の腹の底は変わらないものだ。

「……水無瀬氏は優しすぎる。それゆえに他人のいい部分しか見られない」

 救いようのない愚か者までも守ろうとして。

 アリスは吐き捨てる。

「それを偽善者って言うんやん」

「何が悪い。善を施すことに変わりはないではないか。……もっとも、彼女はそんなぬるい覚悟ではないがな」

 気丈(きじょう)に振る舞いつつも、頭を締めつけるような痛みの波が徐々に大きくなってきていた。
 鼓動が速まり、血の気が引いていく。

 時間がない。
 時を止めているのに時間がないなんて、妙なものだ。

(……すまない、水無瀬氏)

 彼女の、そして彼らの信念を(ないがし)ろにはしたくなかったが、これはその“限界”と言わざるを得ないだろう。

 仕方がない。相容(あいい)れないものは存在する。

 紅は開き直るのではなく、そう割り切ろうとした。

(それでもこの危険因子だけは、命を懸けて(ほうむ)り去ることを誓おう)

 決然と強い眼差しを突き刺した。

「わたしが……おまえを殺す」
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