ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
「はあ……? やれるもんならやってみれば」
彼女の宣言はにわかに信じがたいものの、どこか真に迫っていた。
そのせいで、笑い飛ばそうとしたのについ怯んでしまう。
「ぐ……っ」
ふいに紅が手で口元を覆った。
蒼白な顔色で、震えていることに気がつく。
そのお陰でアリスに余裕が戻った。
「随分と辛そうやなぁ。あたしを殺る前にあんたが死ぬんちゃうか?」
浅い呼吸を繰り返す紅は、唇の端についた血を拭った。
に、と口角を上げる。
初めてその表情が変わった。
「……案ずるな、一瞬だ」
────時が動き出したそのとき、アリスの首には真一文字の切り傷が浮かび上がっていた。
「……っは!?」
目を見開き、慌てて両手をあてがう。
痛みを感じる間もなく、間欠泉のように鮮血が噴き出した。
その勢いのまま、ふっと意識を手放すと背中から地面に倒れる。
すぐそばには既に紅が横たわっていた。
「な、なに……? 何が起きたの!?」
それぞれが混乱をあらわにする。
本当に一瞬で、突然の出来事だった。
小春は弾かれたように、倒れているふたりと血の海に駆け寄った。
屈んで様子を窺う。
脈を見るまでもなく、彼女たちに息がないのは明らかだった。
「どうして……」
ふと目をやると、紅の手には血のついたカッターナイフが握られている。
カッターナイフ────紗夜はポケットに手を入れる。
ない。
いつも持ち歩いているそれがなくなっている。
「わたしの……。どういうこと? 紅に渡した覚えなんてないのに」
不可解そうに見やると、彼女には血を吐いた痕跡があった。
閉じた目や鼻、耳からも血の筋が伝っているのが分かる。
「まさか、反動?」
「何でこんなことに……!?」
「紅が、アリスを殺した……」
それぞれがうろたえる中、白い顔の紗夜が結論を出した。
アリスのせいで冬真の記憶が戻ってしまうのを阻むために時間を停止したのだろう。
けれど、それは所詮その場しのぎに過ぎない。
彼女の性根は変わらない、と判断した紅が、やむなく命と引き換えにアリスも連れていった────。
気づいたときには、既に紅が倒れていて息がなかったことを考えると、瞬間的に何度も時間操作を繰り返した可能性がある。
たとえば、一度は停止した世界でアリスと話したかもしれない。
すぐに殺すのではなく、話を聞いた上で判断したはずだ。
何しろ“これ”は、最も避けたかった選択だから。
「そんな……っ」
小春は肩を震わせた。
ぎゅ、と両手を強く握り締める。
結果として、紅に裏切り者の対処を押しつけた形になってしまった。
彼女の死は、小春が理想を追い続けたしわ寄せが及んだ結果なのではないだろうか。
守るなんて言いながら、結局誰かが手を汚さなければ、自分たちの身すら守れないではないか。