ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

「……っ」

 唇を噛み締め、こらえきれずに涙をこぼす。

 悲しいのと同時に、強い自責の念が胸を締めつける。
 悔しかった。自分の甘さに腹が立つ。

 理想を掲げるだけなら簡単だ。
 けれど、それを貫き通すことは難しい。

 今回も、具体的な考えがないまま流されるような形でここに来た。

 何とかなると思っていた。
 それは、ほかの誰かの力に甘えていたからだ。

 何度繰り返せば気が済むのだろう。

 周囲に頼りきった結果、何人失っただろう。
 自分の理想のせいで何人傷つけただろう。

 最低だ、と思った。

 仲間を守るためだったはずが、自分を守るための言いわけになっていた。

 責任から逃げるために、殺さない理由を作りたかっただけなのではないか。

 それを周囲に押しつけることで、自分だけにのしかかる負い目から目を背けたかったのではないか。

 仲間を傷つけてまで、死なせてしまってまで、守りたかったのは自分自身……?

(本当に最低だ、わたし……)

 とめどなく涙があふれて、息が苦しい。

「……わたしのせいだ。みんなが死んじゃったのは、ぜんぶ」

 無責任な信念を無理強いして、取り返しのつかない事態に追いやった。

「おまえのせいじゃ────」

 思い詰める小春に蓮が手を伸ばしたとき、それより先に瑠奈が小春の腕を掴んだ。

 自分の方に向き直らせると、思いきり平手打ちする。

「!」

 ぱんっ、と乾いた音がした。

 突然のことに驚いて、頬の痛みはあとから遅れてやってきた。
 じんと痺れて熱くなる。

 蓮たちも、その行動に呆気に取られた。

「何のつもりだよ」

「あたしは小春ちゃんに感謝してるの」

 毅然と瑠奈は言う。

「小春ちゃんのお陰でゲームに飲まれずに済んだ。……ううん、一時は飲まれたけど戻ってこられた」

 我を見失わずに、自分を取り戻せた。

「確かに償いきれない過ちを犯した。でも、小春ちゃんのお陰で間違いに気づけた。慧くんや琴音ちゃんに(あがな)いながら生きていかなきゃって思った。あたしは、小春ちゃんの優しさに生かされたの!」

 小春の手を握り締め、その双眸(そうぼう)を見つめる。

「間違ってなんかない。小春ちゃんが否定しないでよ」

「……!」

 そんなふうには考えたこともなかった。
 小春の瞳が揺れる。

「……そうだよ、瑠奈ちゃんの言う通り。小春ちゃんが自分を責めて、やってきたことを否定したら、死んじゃったみんなが報われない」

 頷いた奏汰が優しい声で紡ぐ。

「きみに従っただけじゃない。みんな、どうするかは自分の意思で選んだ。だから、小春ちゃんがそれを悔いるのは、ちがうんじゃないかな」

 息をのんだ小春は目を見張った。

(そっか……)

 それこそ無責任だろう。
 みんなの選択を、答えを、尊重するべきだ。

 残った仲間を信じて託した結果なのだから。

 生き残った自分たちがするべきは、悔いたり自分を責めたりすることじゃない。

 命を賭けて使命を果たすしかない。
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