忘れえぬあなた ~逃げ出しママに恋の包囲網~
アクシデントからの同居
初めて出会った時から、尊人は大人だった。
年齢的にも8つ上で、当時大学生だった私から見ると社会人の尊人は別世界の人のようだった。
当時の私はただ憧れの気持ちで彼を見ていたのかもしれない。
だからこそ彼に釣り合う自分でいる自信がなくて、逃げ出した。
もちろんきっかけは絢子さんの存在だったと思うけれど、根本にあるのは私の弱さだろう。
そういう意味で私は絢子さんを恨んではいない。でも、今回は違う。
嫌がらせの始まったタイミングを考えると、思い当たる原因は絢子さんだけ。
私の憶測が正しくて今回の嫌がらせが絢子さんによるものならば、私は絢子さんを許せない。

「どうした、気分が悪いのか?」
移動中の車の中で眠ってしまった凛人を抱えながら外を見ていた私を、尊人が振り返った。

「いいえ、大丈夫」

尊人に甘えてはいけないと思いながら、今一人でないことにホッとしている自分がいる。
凛人のためにも強くならなくてはいけないと思いながら、やはり心細さは消えない。
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