再会した財閥御曹司は逃げ出しママと秘密のベビーを溺愛で手放さない~運命なんて信じないはずでした~
うぅーん。
夕闇迫る東京湾の風が火照った頬に気持ちいい。
カレンダーの上では9月に入り、もうすぐ秋ではあるけれど今年は残暑がきついようでまだまだ暑い日が続いている。

「あら、お嬢さん。寒くはないの?」
背後から親し気に声をかけてきたのは60代に見える上品そうなご婦人。
当然私には面識はない。

「大丈夫です。会場の中が熱かったので、ちょうどいいですよ」
「そう、ならいいけれど」
そう言うと夫人は私の隣まで来て、手すりに寄り掛かり海を眺める。

深い翡翠色のドレスを着たこの方も、どうやらパーティーの参加者のようだ。
もしかしたら私と同じようにパーティーの空気にやられて出てきた人かしら。
並んで立つ夫人を見ながら、そんなことを思っていた。

「あなたも背が高いのね?いくつ?」
「えっと・・・170センチです」

普段なら身長の話は大嫌い。
それだけのコンプレックスが私にはある。
でも、よく見ると婦人もそこそこ高い。

「私は166センチ。今でこそ珍しくはないけれど、私が若いころは『大女だ』っていじめられたのよ」
「そうなんですか」

昔は男女ともに小柄な人が多かったものね。
きっと悔しかっただろう。その気持ちは私にもわかる。

それからしばらく私は婦人と話をしていた。
物腰柔らかで上品な婦人はどこからどう見ても上流階級の人。
やはり私とは別世界の人よね、なんて思いながらも楽しく話をした。

「私も自分の外見が好きだって思えるようになって気が楽になったの。だからあなたも自分に自信をお持ちなさいね」

別れ際に夫人からかけられた言葉が今の私にはとても響いた。
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