悪役令嬢にならないか?
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 リスティアは、ハンメルト侯爵家の長女として十七年前に生を受けた。彼には三つ年上の兄がいる。兄は、王立騎士団の近衛騎士隊に所属し、王族の警護についていた。
 リスティアの両親は、領地にある本邸で暮らしている。
 そしてリスティアは、王立学園の最終学年として勉学に励み、学園にある寮で侍女のメルシーと生活をしていた。
 メルシーは、リスティアが幼いときから身の周りの世話をしてくれる、心許せる人物である。
「ねぇ、メルシー。悪役令嬢って知っている?」
 リスティアは夕食を部屋でとっていた。寮での食事は食堂でも部屋でも、好きな場所で食べていいのだ。他人と付き合うのが苦手なリスティアは、こうやって自室でメルシーと二人で食事をする。
 メルシーは食後のお茶をリスティアの前においた。
「そういった本が人気ですね。お嬢様も読まれたのですか?」
 どうやら、悪役令嬢とは本の話として有名なようだ。だからウォルグもあの本を貸してくれたのだろう。
「そうなの? 人気なの? 実はウォルグ様から本をお借りして」
「まぁ、ウォルグ殿下から? お嬢様、いつの間にウォルグ殿下とそのような関係になられたのですか?」
 なぜかメルシーが目をきらきらと輝かせている。
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