【書籍化&コミカライズ】虐げられていた身代わり令嬢が呪われ王子に溶けるほどに愛されるまで
カトリーナはクラレンスの問いに答えられずに口を噤んだ。
今まで麻痺していた感情の歯車が、ゆっくりと動いていくのと同時に忘れていたものが呼び起こされる。

(なくなってしまいそうで……怖い)

些細な幸せですら、当然のように全て奪い取られていったカトリーナにとって、トラウマを呼び起こすような恐怖だ。
カトリーナがキュッと唇を結んで俯いているとクラレンスは暫く考えて頬を掻く。


「まぁ……気負わずにテーブルマナーの練習だと思えばいい」

「練習、ですか?」

「…………。そうだ」


ニナが後ろから「クラレンス殿下、お誘いが下手すぎます……!」と唇を噛みながら悔しそうに地団駄を踏んでいる。
クラレンスはニナの言葉をかき消すように咳払いをした。

(こんな私が……クラレンス殿下とご一緒してもいいのかしら)

カトリーナがどうすればいいかわからずに迷っていると……。


「ニナから行儀見習いとしての仕事は完璧で教えることはないと聞いている」

「……!」


確かに十年もの間、サシャバル伯爵邸の使用人として、侍女として働いてきたカトリーナに教えることといえばほとんどないのだろう。
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