壊れてしまった宝物
二十分ほど経っただろうか。いい匂いがリビング中に漂う。そして、テーブルの上に律が料理を並べていった。

鮭とキノコの炊き込みご飯、豆腐とわかめの味噌汁、野菜炒め、鯖のトマト煮が木造テーブルの上を華やかにさせていく。どれもおいしそうで、理沙は「すごい……」と呟いた。エプロンを脱いだ律が笑いかける。

「できましたよ!さあ、食べましょう!」

「いただきます」

三人でテーブルを囲み、手を合わせてから食べ始める。理沙は炊き込みご飯を口にした。そして、あまりのおいしさに思わず頰に触れてしまう。

「おいしいです!」

「それはよかったです。嬉しいな」

律は幸せそうに笑った。そんな律の隣で、空も「おいしい」と繰り返している。

一瞬だけ、理沙は律と家族になったようなそんな気分になってしまった。



律の家でご飯を食べてから数日、律との関係が大きく変わることはなく、穏やかな日々は過ぎていく。そんなある日のことだった。理沙が職場を出て、空を迎えに行こうとしていると呼び止められる。振り向いた先にいたのは、同じフロアで働く男性だった。
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