壊れてしまった宝物
「お邪魔します……」

理沙は緊張を覚えながらそう言い、玄関へと入る。理沙とは正反対に空は元気よく「お邪魔します!」と言い、手を洗いに洗面台へと律と向かった。その後ろ姿はまるで親子のようである。

(先生はどうして私を誘ってくれたんだろう……。私のことが好き?そんなわけないよね)

そんなことを考えていると、「木下さん。手を洗ってくださいね」と律に笑顔で言われる。「はい」と返事をし、理沙も洗面台へと向かった。

木造の家具に囲まれたリビングの隣にキッチンがあり、律はキャラクターの描かれたエプロンを身に付ける。

「食事は作り置きしてあるので、温めたらすぐに食べられます」

「あっ、私も何か手伝います!」

「いえいえ。僕が誘ったんですから、ゆっくりしてください」

律にそう言われたため、理沙はリビングのソファに座り、空と待っていることにした。

「先生のお家、すごく素敵だね!」

空が笑い、その頭を撫でながら理沙も頷く。自分たちが住んでいるのは、築年数のかなり経ったアパートだ。お世辞にも「綺麗」とは言えない。
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