御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
私たちはベリヶ丘駅で待ち合わせをした。

私の職場や奥山さんの職場からも近く、なんでも揃うベリヶ丘はやっぱり便利。でもこの前のように、いくら穴場でもツインタワーはやっぱり私には敷居が高い。でも今回はサウスパークにあるお店だった。シーフードのお店だと言っていた。
私は待ち合わせの18時より少し早く駅に着いた。
改札で立っていると近くのオフィスからの帰りなのか綺麗なスーツを着た人やオシャレな私服の人が行き交っている。
この前よりも少しだけおしゃれをした私だったが、やはり気後れしてしまう。
ネガティブな想像をついしそうになっていると、改札から片手をあげ、合図をする男性がいた。
長身で細身。紺のジャケットにグレーのパンツ、黒のトートバッグに革靴。もちろん中は白いTシャツだ。服装も見た目も完璧。でも顔はいつものように前髪で隠れている。今日は黒縁のメガネもかけていて、残念な印象となっている。
私も手を挙げると、改札から飛び出すように私のところは小走りで来た。

「ごめん、余裕を持ってきたかったけどギリギリになっちゃって」

「私が早く着いただけですから大丈夫です」

そんな話をしている間も人が多く、立ち止まっているのも迷惑になりそう。彼もそう思ったのか、行こうかと軽く私の背を押した。
サウスパークは一度だけ友達と行ったが、海が見える素敵なエリア。でもおひとり様で来る勇気はなかった。
彼の仕事の話を聞いていると気が遠のくような地道な作業。でもそんな努力の上で私たちに必要な薬が作られているのだと思うと感服する。私の仕事のように誰にでもできる仕事じゃない。そんな仕事をしている奥山さんを尊敬の眼差しで見つめると、苦笑いをしていた。
全ての研究がうまくいくわけではないんだ。やってもやってもうまくいかなくてうんざりする方が多いよと言うが、それでも続けている地道な努力が世の中の多くの人の幸せにつながっていると伝えると彼は頭をポリポリとかいていた。

「ここなんだけどいい?」

海に面したレストランで、全面ガラス張り。
水平線に陽が落ちたばかりなのかまだ海面が赤くなっていた。
案内された席はゆったりとした革張りの椅子で、テーブルには小さなランプがついていた。

「もちろんです!」

私は椅子に座るとまた海に視線を向けた。徐々に夜の帳が下りる。さっきまで赤くなっていた海面もだんだんと暗くなってきた。あと少しだと思うと食い入るように見つめてしまう。そんな私の様子に注文を促すわけでもなく、奥山さんも一緒に海を見つめていた。
程なくして真っ暗になってしまった海面。まだまだ見ていたかったなと思いながらも視線を戻すと彼と目が合った。

「これから陽が伸びてくるからまた見る機会はあるよ」

またここに一緒に来られると言われているようで私の胸はドキンとした。今まで感じたことのない感覚でどうしたらいいかわからなくなった。
何を食べたらいいのかなかなか決められず、彼と一緒にコースを頼んだ。
食前のワインから始まり、ビシソワーズ、鮮魚のカルパッチョ、アスパラとホタテのソテー、真鯛の包み焼き、和牛ホホ肉の赤ワイン煮込み、最後にりんごとさつまいものカスタードパイで終わった。
量は多くないが、数が多くどれも美味しくてペロリと食べてしまった。

「とても美味しかったです。奥山さんはこの前のお店もですけど、詳しいんですね」

「あぁ。食べるくらいしか楽しみがないから」

「来なれた感じがしますもん。彼女さんとですか?」

「え?! 違う。全然違う」
 
私の問いに焦ったように答えていた。
こんなおしゃれなお店に行くのはカップルだと思ったのに違ったのかな。

「以前知り合いと来ただけで、彼女じゃない」

「そうですか」

別にそんなに力説しなくても、と思うが手を振り違うアピールをしてきた。
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