御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
スマホがメッセージの受信を通知しているが、どうしても開く気持ちになれなれず電源を落とした。
こんなにも好きになってしまったのに、彼にとって私はなんなんだろうと虚しくなってしまった。
入浴するとベッドに潜り込み、また涙を流した。
翌朝起きると目は腫れ、顔はむくみ、ボロボロだった。洗顔し、ほっとタオルを乗せるとマシになり
出勤するが、美和はギョッとした顔をして私を見つめた。
「ちょっと、どうしたのよ」
給湯室に呼び出されると美和は顔を見てすぐに突っ込んできた。
「うん、ちょっとね」
「奥山さんに関係ある?」
端的に話す美和に、私は頷いた。するとため息を落とし、私に甘いカフェオレを手渡してきた。
「後でゆっくり聞いてあげる。とにかく甘いものを飲んで一度大きく深呼吸よ。みちる、酷い顔してるよ」
私の顔を見れば何かあったのか一目瞭然だろう。美和に促され私は深呼吸をする。凝り固まった体が開くように少し力が抜けた。
開けてくれたカフェオレを一口飲むと、甘さが体に染み渡る。今朝は何も食べられなかったから余計だ。
「さ、頑張って働いちゃおう」
美和の今の顔を見ただけでまた泣いちゃいそうだ。優しくされると弱った私の心がまたグラグラとしてしまう。奥歯を噛み締めると私はデスクに戻り仕事を始めた。
定時に仕事を終わらせると美和に誘われ半個室になった居酒屋に入った。食事が美味しくて、美和と来ることが多かったがお互いに彼ができてからは来ていなかった。何品か注文すると、早速美和は私に尋ねてきた。
「どうしたの?」
彼女の優しい声にもうがまんの限界だった。私はまた涙が流れてきてしまった。
ティッシュを手渡されると、私は目元を押さえ、しゃくりあげながら今までの話をした。
「蒼生さんが三橋製薬の御曹司だったの。だから私を家に呼んでくれなかったんだと思う。彼はただの研究員と言っていて、隠していたの。それにね……」
「ちょ、ちょっと待ってよ。あの奥山さんが三橋製薬の御曹司?」
慌てた表情の美和に私は頷いた。すると彼女はスマホで検索をしているが顔写真がなかなか見つからず、確信が持てないようだった。私が昨日見つけたサイトを見せると彼女は驚いていた。
「え? 顔が違くない??」
「そうかな? 確かにみんなに見られるのが嫌だと前髪で隠しているのが多いかな」
「そうでしょ。私の知っている奥山さんは、正直パッとしない人だったよ」
正直すぎる美和の発言に私は涙ながらに苦笑した。
「会うのはいつも彼の仕事の合間で、彼のタイミングでしか会えないの。一緒にいると楽しいし、幸せなんだよ。でも一緒にいると何故か違和感があったの。その理由がようやく分かったの。育ってきた環境も、今の生活環境も何もかも違ったの」
「確かに最近のみちるはとても幸せそうだと思っていたのよ」
私は涙を拭きながら頷いた。
「うん、幸せだった。でも昨日彼の正体に気がついて、私は隠し事をされていたんだと思ったら急に悲しくなってしまって。私には肝心なことは何も言わず、自分の都合のいい時にだけ会う彼女だったのかな」
悲観する私に美和は何も言えずにいた。正直な彼女は私を励ます嘘はつけないのだろう。他人から見ても今の状況では私が遊ばれたと感じざるをえ得ないのだろう。
「どんどん好きになっていっていたの。だけど、いつも何かが違うって思ってた。私と何かが違うって感じてたの。でも彼を好きになって、気にしてはダメだと言い聞かせていたのかもしれない」
「うん……わかるかもしれない。その気持ち。好きだからこそ彼のいいところだけを見たいんだよね。隠されていることに気が付きたくないんだよね」
美和の的確な言葉に私は何度も頷いた。本当にそう。いつも気になっていたし、どこか蟠りがあった。でもそれを話して彼に嫌われたらと思ったら言えなくなっていた。言いたいことがいい合えるような信頼関係が築けていなかったのかもしれない。初めての彼に甘やかしてもらい、すっかり彼の虜になってしまった。彼が離れていくなんて考えたくないもないと思って言いたいことが言えなくなっていったのかもしれない。
「それでみちるはどうしたいの? 彼と話し合うの?」
「わからない。正直私の見てきた彼が別人なのかもと思うと怖い。本当の話を聞くのも怖いの」
「そっか。でもこのまま終わってもいいの? 連絡を断ち切ったら終わってしまうかもしれないんだよ」
そうかもしれない。私が連絡をしなかったらいつかは彼からも途絶えるだろう。話し合いもせず、このまま自然消滅してもいいのかと聞かれると答えられない。私はまだ彼が好き。だからこそどうしたらいいのかわからない。彼と生活レベルも育ってきた環境も違う。ただの遊びとして私から離れたほうがいいのかもしれない。でも心のどこかでそれは嫌と思う自分もいる。
「正直なところ、彼の気持ちになってみたら急にみちると連絡が取れなくなっていい気持ちではないはずだよ。心配もすると思う。だから個人的にはきちんと話すべきだと思っているよ」
「うん」
「みちるが反対の立場ならどう思う? 向こうが本気だったかどうかなんて本人にしかわからないよ。それを勝手に彼の気持ちを解釈してしまうのはなんか違うと思う」
確かに勝手な私の解釈だ。彼に言われた訳でもないのに、弓川社長との写真や記事を見て勝手に検索し、私と違う世界の人だと考えてしまった。私の中で勝手に辻褄を合わせ、自分が納得するような結果に結びつけているのかもしれない。本当のことかもしれないけれど、本人から聞かないで関係を終わらせてしまっていいのかわからなくなった。美和の言う通り直接話をするべきなのかもしれないと考え直した。
「ありがとう、美和。なんだかスッキリした。昨日から、彼に嘘をつかれていたとショックで悪い方へと考えてばかりだった。彼の気持ちを聞かないで後悔はしたくない。もしこれで終わりになるとしても、ケジメをつけないと引きずってしまいそうだもん」
「そうだよ、よく話あって。お互い他人なんだもん。ぶつかり合うことも話が合わないこともあるよ。それがどこまで許せるか、相手を思いやれるかが大事だと思う。ぶつかってくるといい。がんばれ」
「美和。ありがとう。頑張ってくる」
やっと涙がおさまり、少しだけ食欲が出てきた私は美和と食事をすると帰宅をした。
こんなにも好きになってしまったのに、彼にとって私はなんなんだろうと虚しくなってしまった。
入浴するとベッドに潜り込み、また涙を流した。
翌朝起きると目は腫れ、顔はむくみ、ボロボロだった。洗顔し、ほっとタオルを乗せるとマシになり
出勤するが、美和はギョッとした顔をして私を見つめた。
「ちょっと、どうしたのよ」
給湯室に呼び出されると美和は顔を見てすぐに突っ込んできた。
「うん、ちょっとね」
「奥山さんに関係ある?」
端的に話す美和に、私は頷いた。するとため息を落とし、私に甘いカフェオレを手渡してきた。
「後でゆっくり聞いてあげる。とにかく甘いものを飲んで一度大きく深呼吸よ。みちる、酷い顔してるよ」
私の顔を見れば何かあったのか一目瞭然だろう。美和に促され私は深呼吸をする。凝り固まった体が開くように少し力が抜けた。
開けてくれたカフェオレを一口飲むと、甘さが体に染み渡る。今朝は何も食べられなかったから余計だ。
「さ、頑張って働いちゃおう」
美和の今の顔を見ただけでまた泣いちゃいそうだ。優しくされると弱った私の心がまたグラグラとしてしまう。奥歯を噛み締めると私はデスクに戻り仕事を始めた。
定時に仕事を終わらせると美和に誘われ半個室になった居酒屋に入った。食事が美味しくて、美和と来ることが多かったがお互いに彼ができてからは来ていなかった。何品か注文すると、早速美和は私に尋ねてきた。
「どうしたの?」
彼女の優しい声にもうがまんの限界だった。私はまた涙が流れてきてしまった。
ティッシュを手渡されると、私は目元を押さえ、しゃくりあげながら今までの話をした。
「蒼生さんが三橋製薬の御曹司だったの。だから私を家に呼んでくれなかったんだと思う。彼はただの研究員と言っていて、隠していたの。それにね……」
「ちょ、ちょっと待ってよ。あの奥山さんが三橋製薬の御曹司?」
慌てた表情の美和に私は頷いた。すると彼女はスマホで検索をしているが顔写真がなかなか見つからず、確信が持てないようだった。私が昨日見つけたサイトを見せると彼女は驚いていた。
「え? 顔が違くない??」
「そうかな? 確かにみんなに見られるのが嫌だと前髪で隠しているのが多いかな」
「そうでしょ。私の知っている奥山さんは、正直パッとしない人だったよ」
正直すぎる美和の発言に私は涙ながらに苦笑した。
「会うのはいつも彼の仕事の合間で、彼のタイミングでしか会えないの。一緒にいると楽しいし、幸せなんだよ。でも一緒にいると何故か違和感があったの。その理由がようやく分かったの。育ってきた環境も、今の生活環境も何もかも違ったの」
「確かに最近のみちるはとても幸せそうだと思っていたのよ」
私は涙を拭きながら頷いた。
「うん、幸せだった。でも昨日彼の正体に気がついて、私は隠し事をされていたんだと思ったら急に悲しくなってしまって。私には肝心なことは何も言わず、自分の都合のいい時にだけ会う彼女だったのかな」
悲観する私に美和は何も言えずにいた。正直な彼女は私を励ます嘘はつけないのだろう。他人から見ても今の状況では私が遊ばれたと感じざるをえ得ないのだろう。
「どんどん好きになっていっていたの。だけど、いつも何かが違うって思ってた。私と何かが違うって感じてたの。でも彼を好きになって、気にしてはダメだと言い聞かせていたのかもしれない」
「うん……わかるかもしれない。その気持ち。好きだからこそ彼のいいところだけを見たいんだよね。隠されていることに気が付きたくないんだよね」
美和の的確な言葉に私は何度も頷いた。本当にそう。いつも気になっていたし、どこか蟠りがあった。でもそれを話して彼に嫌われたらと思ったら言えなくなっていた。言いたいことがいい合えるような信頼関係が築けていなかったのかもしれない。初めての彼に甘やかしてもらい、すっかり彼の虜になってしまった。彼が離れていくなんて考えたくないもないと思って言いたいことが言えなくなっていったのかもしれない。
「それでみちるはどうしたいの? 彼と話し合うの?」
「わからない。正直私の見てきた彼が別人なのかもと思うと怖い。本当の話を聞くのも怖いの」
「そっか。でもこのまま終わってもいいの? 連絡を断ち切ったら終わってしまうかもしれないんだよ」
そうかもしれない。私が連絡をしなかったらいつかは彼からも途絶えるだろう。話し合いもせず、このまま自然消滅してもいいのかと聞かれると答えられない。私はまだ彼が好き。だからこそどうしたらいいのかわからない。彼と生活レベルも育ってきた環境も違う。ただの遊びとして私から離れたほうがいいのかもしれない。でも心のどこかでそれは嫌と思う自分もいる。
「正直なところ、彼の気持ちになってみたら急にみちると連絡が取れなくなっていい気持ちではないはずだよ。心配もすると思う。だから個人的にはきちんと話すべきだと思っているよ」
「うん」
「みちるが反対の立場ならどう思う? 向こうが本気だったかどうかなんて本人にしかわからないよ。それを勝手に彼の気持ちを解釈してしまうのはなんか違うと思う」
確かに勝手な私の解釈だ。彼に言われた訳でもないのに、弓川社長との写真や記事を見て勝手に検索し、私と違う世界の人だと考えてしまった。私の中で勝手に辻褄を合わせ、自分が納得するような結果に結びつけているのかもしれない。本当のことかもしれないけれど、本人から聞かないで関係を終わらせてしまっていいのかわからなくなった。美和の言う通り直接話をするべきなのかもしれないと考え直した。
「ありがとう、美和。なんだかスッキリした。昨日から、彼に嘘をつかれていたとショックで悪い方へと考えてばかりだった。彼の気持ちを聞かないで後悔はしたくない。もしこれで終わりになるとしても、ケジメをつけないと引きずってしまいそうだもん」
「そうだよ、よく話あって。お互い他人なんだもん。ぶつかり合うことも話が合わないこともあるよ。それがどこまで許せるか、相手を思いやれるかが大事だと思う。ぶつかってくるといい。がんばれ」
「美和。ありがとう。頑張ってくる」
やっと涙がおさまり、少しだけ食欲が出てきた私は美和と食事をすると帰宅をした。