お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
 リディアの苦労の対価と思えば、妥当かもしれないけど……一庶民には重すぎる。心臓に悪い。

 バクバクと鳴る心臓に耳を傾けつつ、私は胸元にそっと両手を添える。
何とか気持ちを落ち着けようとしていると、兄が開けっ放しの扉からひょこっと顔を出した。
かと思えば、私の姿を見て驚く。

「おい、顔色が悪いぞ。どうしたんだ?まさか、内装が気に食わないのか?なら、今すぐ修正を……」

「い、いいえ……!その必要は、ありません。すっごく気に入ってますから。ただ、こういったことは初めて(・・・)なので驚いているというか……」

 体調のこともあり、前世ではここまで豪勢な誕生日パーティーをやったことがない。
せいぜい、両親と一緒にケーキを食べた程度。
運よく外泊を許されれば、家で祝ってもらえるけど……そうじゃない時の方が圧倒的に多かった。
まあ、看護師さんや他の入院患者さんにも祝ってもらえるから、それはそれで楽しかったんだけどね。

 ─────と思い返す中、兄はどこか複雑な表情を浮かべる。
レンズ越しに見える月の瞳は、どこか同情的で……こちらの境遇を哀れんでいるようだった。
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