いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
(どうしてここに? あ、そういえば同僚が入院しているって……)

 スーツ姿だから、仕事の途中にお見舞いに来たのだろうか。

「すごい、偶然」

 うれしくて声をかけようと近づいた麻衣子は、途中でぴたりと足を止めた。

 裕斗が女性とふたりで居たからだ。

 淡いグリーンのワンピースに、ベージュのウールのコートを着た、可愛らしい雰囲気の女性だ。年齢は麻衣子と同年代だろうか。

 裕斗とはずいぶん親しいようで、明るい声を立てて笑っている。

 ひやりと冷たいものを飲み込んだような感覚に襲われる。

 麻衣子は声をかけられないどころか、裕斗に見つからないように身を隠した。

(あの女性は誰だろう。入院患者ではないよね。かなり親しい様子だけど)

 耳を澄ますと女性の高い声が聞こえてくる。

「裕斗さんは、結婚を考えているんでしょう?」

 裕斗が何か答えたようだが、声が小さいため聞こえない。

「当分は本省勤務だから、結婚式もこっちであげられるものね」

 声質の問題なのか、相変わらず裕斗の返事は聞こえてこない。しかしかなりプライベートな内容を話しているのは分かる。

「私はあまり華やかな式は好きじゃなくて、厳かな雰囲気の神社がいいのだけど、新居でワガママを言わせてもらうから」

(え……どういうこと?)

 会話の意味を完全に理解したわけではないが、彼女と裕斗が結婚するような流れに思える。

 足元から不安がこみ上げる。

 麻衣子はふらふらとその場を離れた。

 動揺が激しかったが、機械的に足を動かして駐車場まで急ぐ。

 ミニバンのドアを開けて、運転席に座ってハンドルに突っ伏した。

(あの女性は誰なんだろう……裕斗さんと結婚の話をするなんて)

 彼の口から麻衣子以外の女性の話題が出たことは、一度もない。

 再会してから裕斗はずっと麻衣子とやり直したいと言ってくれていたから、他の女性がいるなんて、考えたことがなかったのだ。

 それだけにショックが大きい。それに。

(私、どうして逃げ出しちゃったんだろう……)

 あの場で本人に聞けばよかった。彼女との話が終わるのを待って、そっと声をかけることはできたはずだ。

 こんなに気にしてうじうじ落ち込むくらいなら、はっきりさせるべきだった。

 意気地なしの自分が情けなくていやになる。

(……戻ろう)
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