いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
 浮かない気持ちで帰宅し、夜遅く帰ってきた絵麻と今後について相談した。

 絵麻がショックを受けるかもしれないと心配だったが、意外にも彼女はあっさりと受け入れた。

「私はその示談を受けてもいいと思うな。実際、玲人さんへの慰謝料を払うのは分割にしてもらうとしても負担だよ。でも引っ越しはできるでしょう? この家は賃貸なんだし」
「そうだけど……」
「タイミング的にも、今ならお姉ちゃんとお母さんの通勤を考えなくて済むし、引っ越ししやすいし」
「でも……絵麻はそれでいいの? それにお母さんは大怪我をしたんだよ?」

 藤倉氏のやり方は卑怯だ。脅迫に屈して言いなりになるのは、麻衣子としては納得できない。

「よくはないけど、仕方がないよ。相手が悪すぎるもの。私たちが逆らっても絶対適わないし、それでもし仕事をくびになったら困るし。意地を張ったら失うものが大きすぎるよ。玲人さんが逆恨みをして押しかけるのも怖いし縁を切りたい」

 絵麻はどこか気まずそうに言った。でも言ったことは彼女の本音なのだろう。

 気持は理解できる。希望の仕事に就き、充実している今の生活を守りたいと思うのは当然だ。

「……分かった。代理人には和解に応じると私から連絡する。お母さんにはふたりで説明しよう」
「うん。お母さんは昔から心配症でもめ事が嫌いだから、事情を話せば納得してくれると思う」
「そうだね」

 麻衣子も母は条件を飲むと思った。でもそれは母が臆病だからではなく、絵麻と麻衣子がもめ事に巻き込まれるのを避けるためだ。
 そうやってずっと、納得できないときも我慢して家族の平和を守ってくれいていた。

(お母さんと絵麻にとっても、和解するのがいいんだよね?)

 家族の平和が一番だ。麻衣子は理不尽さを飲み込んだ。

 予想通り、母は和解を望んだ。

 急ぎ新居を探して、十月上旬には転居することになった。

 ところが、母の病室で話し合をした二日後に、母の病状が急変した。

 脳梗塞で意識不明の重体になってしまったのだ。

 命は取り留めたが、麻痺などの後遺症が残る確率が高く、リハビリをしても通常の生活を送るのは難しいそうだ。

 交通事故との因果関係ははっきりしないとのことだった。

「お母さん……」

 寝たきりになってしまった母の姿を見て、絵麻が涙を流している。
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