いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
「麻衣子!」
背後から聞こえてきた声に、麻衣子はびくりとしてその場で立ち止まった。
自分が呼ばれたのは分かる。けれど振り返ることができなかった。
心臓がどくんどくんと音を立てる。
(今の声……)
麻衣子にとって忘れることができない、記憶の通りの声。
先ほど見かけた男性の姿を思い出す。あれは見間違いではなかったのだろうか。
「待ってくれ」
今度はすぐ近くで呼びかけられる。知らないふりが通じるわけがなく、麻衣子は覚悟を決めて振り返った。
少しだけ距離を置いた位置に、思った通り彼がいた。
(裕斗さん……)
ずきりと胸が痛む。
遠目で見たときは昔と変わらないと思ったけれど、こうして間近で見ると、四年の年月を感じずにはいられない。
相変わらずの美麗な顔貌に以前はなかった影を感じる。けれどそれは悪い意味ではなくて、明るい華やかさの代わりに落ち着いた大人の男性の魅力を増したように感じた。
「麻衣子」
彼の姿に見入っていた麻衣子は、かけられた声にはっとした。
「……裕斗さん」
名前を口にすると取り繕うことが難しいほどに、動揺してしまう。
心が騒めいて頭の中が混乱している。
今でも彼が忘れられない。愛している。けれどこうして会いたくなかった。
辛い別れから立ち直って、順調に生活をしていた。けれど彼の顔を見たら、何もかもが振り出しに戻ってしまったような気持ちになる。
それに、別れは彼を裏切る酷いものだった。
裕斗は怒っているのではなかったのだろうか。怒っているから、最期の電話から二度と連絡が来なかったのではないだろうか。
もしかしたら、責められるのかもしれない。
様々な考えが浮かんでは消えていく。混乱する麻衣子に、裕斗が僅かに微笑んだ。
(えっ?)
予想外の反応に、麻衣子は思わず目を見開いた。
「久しぶりだな」
裕斗の声は穏やかで、とても怒っているとは思えなかった。
「あ、あの……お久しぶりです」
緊張のあまり、声がうまく出てこない。
「ああ。ここで再会できるとは思っていなかったから驚いたよ」
「ほ、本当に……」
なぜ彼が地方の病院にいるのだろうか。スーツ姿だから仕事だとは思うけれど。
「麻衣子はここに通院しているのか?」
同じような疑問を持ったのか、彼が質問してきた。
「ええ。でも私ではなくて……」
そこまで答えてはっとした。