いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
(突然すぎて、頭がうまく回らない)
こんな状態で気持ちのまま会話をしても、失言をして後で後悔するだけだ。
「そうか……引き留めて悪かった」
そう言う裕斗の顔が残念そうに曇ったように見えた。
(いえ、勘違いよ。裕斗さんはただ懐かしくて声をかけただけ)
彼は麻衣子のようにもう意識していないのだ。
酷いことをした麻衣子に親し気に声をかけて来たのが、過去に拘っていない証拠だろう。
その事実にずきりと胸が痛む。
(裕斗さんと違って私はまだ過去になんてできないから)
塞がりかけた傷が広がりじわじわと血があふれていくように、痛みが全線をめぐっていくようだ。
彼に会いたくなかった。せっかく保っていた心の平穏が、もろくも崩れ去ってしまうなんて。それなのに会えて喜んでいる自分がいる。
矛盾した感情から目をそらし、麻衣子は早口に言う。
「慌ただしくてごめんなさい。失礼します」
そのまま足早に立ち去ろうと踵を返す。
「待ってくれ!」
ところが裕斗に呼び止められた。
「え?」
振り返ると彼は、まるで痛みに耐えるような険しい表情で麻衣子を見つめていた。
「近いうちに、時間を作ってくれないか?」
「え?」
麻衣子の心臓がドクンと大きく跳ねる。
「電話で別れたきりになっていただろ? 一度しっかり話をしたいと思っていたんだ。場所や時間は麻衣子の都合に合わせる」
裕斗が麻衣子の見つめる眼差しは真剣だった。
(話し合いなんて無理よ。でも……)
麻衣子はぐっと口ごもった。
おおらかで寛容な彼だけれど、こういった目をしたときの彼は絶対に引かないと麻衣子は知っている。
それに簡単に会うことが出来ない距離なのに、電話で一方的に別れを切り出した自分のやり方が卑怯だったのは分かっている。
裕斗が納得できず、言いたいことがあるのは当然なのだ。
「……わかりました。短い時間なら」
「十分だ。ありがとう」
裕斗が僅かに微笑んで言う。優し気な表情からは先ほど感じた切迫したような何かは感じなかった。
「俺の連絡先は変わっていないが、念のため名詞を渡しておく」
彼は名刺を取り出すと、素早くプライベートの番号を書き込んだ。
きっと麻衣子が裕斗のアドレスを消したと気づいているのだ。
気まずさを覚えながら名刺を受け取る。
「子供を預けないといけないから、予定が決まったら連絡します」
「ああ、待ってる」
麻衣子は踵を返し、小春をぎゅっと抱きしめながら駐車場に向けて歩き始めた。
心臓がどきどきして、早くこの場から去りたくなて早歩きになる。
裕斗は今どんな顔をしているのだろう。
気になったけれど、彼もこちらを見ているような気がして振り向けなかった。