まだ誰も知らない恋を始めよう
 フィニアスの苦い笑いが少し治まってから、兄は続けた。


「担当があれこれ気を回さないアボットだからこそ、シーバスはペンデルトンを、公私ともに会食によく利用する。
 ホテルの担当者が自分を構いに来ないなんて、あそこぐらいだからな。
 プライベートだから挨拶は不要と言われたら、予約は入れても、顔出しをしないアボットはシーバスの食事相手が誰かは証言出来ない」

「うちを使うのは、シーバスの自宅は監視されているからですか?」

「自宅に招くより、公的な場所で堂々と会う方が言い逃れしやすいからだろう」

 尋ねたフィニアスに兄が頷いた。


「ホテルは職業柄、客のプライバシー管理に厳しくて、協力させるのは難しい。
 加えて、ホテル内部に共犯者が居る可能性もある。
 完全に逮捕出来る状態になるまで、ホテルにその確認は取らないと決まった。
 あいつら全員を炙り出すまでは、我慢我慢忍耐忍耐」


 兄の言葉に、またもフィニアスの表情が翳った。
 従兄への疑いはほぼ無くなったが、別の共犯者がホテル内部に居るかもしれないからだ。
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